イギリスの田舎の家に 魅せられ、家づくりへの 想いが強まった サロンのあるチューダー 風邸宅、レンガをまとった ジョージアン様式の家など、 イギリスをはじめとする世 界各国のデザイン住宅を手 掛ける「株式会社住建」。
同社の代表取締役社長である、 阿部嘉章さんは、新しいカン トリースタイルの家を提案 する自社ブランド「イエロー チェア・ハウス」を立ち上 げ、住む人が長い将来に渡っ て幸せに暮らせる家づくり を提供している。
阿部さんは、カントリース タイルの本場であるイギリ スの人々の暮らしぶりを自 らの住宅づくりに生かすた め、今年6月、「井形慶子ツ アー」に参加した。個性豊か なイギリスのカントリーサ イドの家々は、プロの建築家 の目にどのように映ったの だろうか。
カントリースタイルという と、型にはまったイメージを抱きが ちですが、実際は家庭によっ てスタイルはバラバラなん です。イギリスの生活風景を 一部、垣間見て、とにかく住 む人自身がその家で暮らすことを楽しんでいるエネル ギーを感じました。
茨城県で、イギリスの暮らしを取り入れた住宅をデザインする 「イエローチェアハウス」の代表・阿部嘉章さんは、今年の春にイギリスを旅し、田舎の村で「運命の出会い」を果たしたという。
電車やバスに揺られなが ら窓から覗いた、広大な牧草 地のグリーンの絨毯の中に、 ポツンポツンと建つ田舎の 可愛らしい家。そのどれもが 個性に溢れ、一つひとつが独 自のスタイルを持っていた。 そんな田園風景に魅せられ、 田舎の家をもっと見てみた いという想いが高まり、阿部 さんはツアーの終盤、単独で レンタカーを走らせ、ケンブ リッジの隣にある小さな村、 グランチェスターまで足を 伸ばした。そこでは思いがけ ない出会いがあったという。
「牧草地の中を車で走ってい たら、バラが咲き乱れるレン ガづくりのコテージが突然出 てきたんです。庭先に出てい た住人のおじいさんに声をか けると、快く庭や家の中を 案内してくれました。エリッ クさんという方で、外国の人 がこの村に来るのは珍しいと おっしゃっていました。屋根 が苔むした築300年は建っ ていそうな古い家で、どこを 写真に収めてもポストカード になりそうな美しさ。それは、 私が理想に描いていた家その ものでした」 外壁にはバラのツタが茂 り、庭にはさりげなく花が 咲き、見事なベジタブルガー デンがあった。それは人に見 せるための家ではなく、まさ に住人自身が楽しむ家だっ た。建物に使われている瓦や レンガ、天然の木材には時の 流れに負けない強さを感じ、 家づくりの意味をあらため て考えることができた旅に なったという。
イギリスに学んだ 住人のための庭 庭づくりなしに家づくりは 完成しないと考える阿部さん は、イギリス式のガーデン設 計を取り入れた家をこれまで も多く提供してきた。それが 「イエローチェア・ハウス」の 大きな魅力ともなっている。
イギリス人は二つの庭を使い 分ける。一つは通りに面する コッツウォルズの民家にあるガーデンで、友人と紅茶を 楽しむ パブリックスペースとしての フロントガーデン、
もう一つ は家族がプライベート空間と して使うバックガーデンだ。
この二つの庭を使い分ける設 計を、日本の住環境や住む人 のライフスタイルに合わせて 提供している。 「日本人にとっての庭は、家 族が楽しむものというより、 美しく手入れして人をもて なすためのもの。庭がオー プンすぎて、窓を閉め切っ て生活している家もよく見 受けられます。それだと誰 のための庭かわかりませんよね?
イギリスでは人の 目を楽しませるのはフロン トガーデン、パックガーデ ンは完全に家族のためのス ペースです。あるところは 野菜を作る畑だったり、一 面に芝生を敷いていたりと、 好き好きに使っている。
例えば日本で、天気のいい日 は庭でBBQを楽しむという と、どうしても人目が気に なりますが、樹木を置いた り外構の設計によって外か らの視界をさえぎることは できます。 イギリスのフロント&バッ ク方式を取り入れながら、セ キュア&オープン(防犯性 が高く、かつ解放的)な庭づ くりを実現してくれるのだ。
家の中心にあるものは そこに住む家族の幸せ 「日本は長い間、化学物質だ らけの家をつくり続けていま した。シックハウス症候群な どが問題視されるようにな り、建築部材は改善されてき ましたが、気密性を重視した 現代の家には、まだまだ危険 が潜んでいます」と阿部さん は警告する。
そこで、「イエ ローチェア・ハウス」は、カ ントリースタイルを取り入れ つつ、自然素材の家づくりに こだわる。同社にとって、カ ントリースタイルの追及と、 自然素材の追及はもともと別 にあった。しかし、それぞれを突き詰めていくと、二つは 交わっていったのだという。 現に、オートメーション化さ れた画一的な住宅では満足で きない人、アトピーやアレル ギーに悩み、健康な家を探し ている人が、同社のオープン ハウスに多く訪れるそうだ。 そんな同社には「3つの 贈り物」と称したコンセプ トがある。
「無添加・自然に 近い無添加の素材や塗料を 使った家」「手作り=丁寧に 思いを込めて手造りしたぬ くもりがある家」そしてそ の間にあるのが「幸せ=家 族が健康で安心して暮らせ る幸せな家」。 「家族の幸せが家の中心に あること。楽しくて素朴な 家が一番だと思っています。
私自身が家族とともに庶民的な幸せを営んでいるから、 それは自信をもって提供できますよ」と阿部さんは笑って話してくれた。同社がつ くるカントリースタイルの 家は、ただ海外の可愛い住 宅をモチーフにしただけではない。そこに住む家族の 20年、30年先の幸せへの願 いが込められているのだ。
住宅デザイナー・株式会社住建代表取締役社長 阿部 嘉章 1967年茨城県水戸市生まれ。1997年に、父が経営する「有限会社住建」に入社 し、建築業界へ。施主の立場にたった住宅を模索するうちに井形慶子の著作に出会い、イ ギリスの住まいづくりの研究を開始する。2007年、株式会社へと組織変更するのにとも ない、代表取締役に就任。イギリスのカントリーサイドの住まいづくりをモデルとした住宅 ブランド「イエローチェア・ハウス」を立ち上げた。 住む人が20年、30年という長 い歳月をかけて住み良くし ていく。その姿を目の当たり にし、長く住むほどに愛着の 湧く家をつくりたい、という 想いが一層強くなりました ね」。